- 風爺
介護保険物語 第2回 (2/3)
「寄り添う」ためには
藤田 はあああ。なるほどー。森藤部長のおっしゃる「寄り添う」介護ってすばらしいと思います。でもその「寄り添う」っていうところをもう少し詳しくうかがいたいのですが?
森藤 例えばですよ、排泄介助で、今まではお一人で行ってらした人が、今度は職員が中に入ってお手伝いをすることが必要になったときですよ、今まで介護をしていた職員に、一緒に入っていいよ、と言ってくださるかどうか。
そもそも、トイレとかお風呂とかいう場面は、通常絶対人には見せたくたい場面ですよね?なのにそこに「介護」する人が踏み込むということは、「介護」のステージが一段上がってるっていうことなんですね。で、そうなったときに問われるのが、双方の信頼関係なわけです。そういう信頼関係が築けていれば、トイレの中に入って介護されても大丈夫ということになるんですが、そうでなければ、いやじゃあ(笑)、ということになりかねない。
藤田 ありますねえ、それ(笑)。いや、多々あります(笑)。
森藤 だから「介護」する人っていうのは、ある意味、「介護」をされる人にとって、「特別な人」になっていないといけないんですね。困るんですね。本当は誰でも彼でもいいわけではないんですよ。ただ、我慢しているか諦めているだけなんです。
だから介護士としてはそういう「特別な人」になれるだけの「人間力」をもってないといけないんです。
藤田 はああ。それはなんなんでしょうね?そういう「信頼関係」って、どうやって得られるんでしょうか?
森藤 それが味噌でして(笑)。でもね、それは単純なんです。
藤田 ほう?
森藤 それはね、「やさしくする」ことなんです。
その人が、まあふつうに生きてきて、そういう中で誰かにやさしくされたり、まあ、時には厳しくされたりして生きてきたわけですが、その人がね、それまで味わったことがないぐらい、出会ったことがないぐらいに、「やさしくする」ことなんですね。これまでこんなにやさしくされたことがない!っていうぐらい「やさしくする」。
藤田 はああ!驚くくらい「やさしくする」!
森藤 この人がいてくれたら、ホントにもう安心、やさしくしてくれる、受け入れてくれる。そういったことをまあ「やさしさ」という言葉に集約しているわけですが、そうした「やさしさ」を、それまでどのくらい与えてきたのか?ということなんです。
思い出してください。サンシャインのパンフレットにありますよね(笑)。
「サンシャインは優しさと出逢う場所」
まさしくあれなんですよ。
藤田 はああ。そういやありますねえ(笑)。でもそうですよねえ。自分がホントに困っているとき誰かにやさしくされたら、ホントに嬉しいっていうか、その人のこと、好きになっちゃいますよねえ(笑)。
森藤 そうそう。人に受け入れてもらうには、そんな「やさしさ」を武器にして人間関係を築いていけばいいんです。そうすれば、その人が、やがておむつ交換してもらわにゃいけん、ってなったときに、誰に頼む?って尋ねたとき、あの人、と言われるようになるんですよね。それが、あいつはいやだ、っていうのが来てね、じゃあおむつ交換しますよってなったらね、そりゃ暴れたくもなるんですよ(笑)。
もう少し言えばね、サンシャインには施設内あちこちに「理念」が掲げられてるでしょ?
藤田 あああ。ありますね。
「理念」
私たちは高齢者の尊厳を守ります
私たちは心のこもった介護に徹します
私たちは地域社会への福祉向上に貢献します
ってやつですね。
森藤 そう。これを実行すればいいんです(笑)。
なにをすればいいのか、ちゃんと書いてあるんです。
「やさしく」なるためには
藤田 ホントだ。ちゃんと書いてありますね(笑)。
でもでもでも(笑)。そういう「圧倒的なやさしさ」っていうかそれって、どうすればそんなにやさしくなれるんですか?
森藤 それはね。ちょっと現実離れしたこと言うけど(笑)。個人だけにそういう「やさしさ」を求めちゃいけないんですよ。
藤田 ほうほうほう!
森藤 そうじゃなくて、施設全体が「やさしく」ならならないとダメなんですよ。
藤田 はははー!それは面白い視点だなあ!
森藤 だいたい、介護職員個人を見れば、ピンからキリまであるかもしれないが、メンタルな部分にも十分気を配りながら介護をしている人はたくさんいると思いますよ。ただ、それは、あくまでも個人の人間性に頼っている部分であって、施設としてこうしようというはっきりした方針や指導があってのことではないので、どこか孤軍奮闘している感が否めません。そのうち疲れてしまって自分だけが頑張ってもしょうがないや、などと諦めの境地にたどり着くのが関の山なんてことになるかもしれません。
いくら個人がやさしくてもね、その上の人がそうじゃなかったら、そりゃ壊れちゃいますよ。自分がやさしくできる源は、実は施設からきてる、と。
藤田 うひゃー!カッコいいですねえ(笑)。
森藤 それはまあ現実離れしてるけど(笑)、でもね?やっぱりそういうリーダーとかいれば、そうなると思うんですよ。人が人にやさしくできるのは、自分が「愛されてる」からですよ。そうじゃなくて「愛」を自家発電してたら大変ですよ(笑)。愛されたら「愛そうかな」っていうこころのゆとりもできるわけですから。だから個人に「やさしさ」を求めるんじゃなくて、施設として「やさしく」ある、という。
藤田 いいですねえ。それ、いいですよ!最高にいい!
森藤 でもね、それって難しいよね。
藤田 施設全体が「やさしい」っていう?
森藤 そんな施設どこにある?てなもんで(笑)。
そこで、もうちょっと別な角度からアプローチしてみると、こういう別の方法もあって、それはね、こういう所で働く人は「いい人」でなきゃいけない、と。
藤田 はあ。いい人?まあ、悪人じゃいけないでしょうねえ(笑)。
森藤 そう。だから、お年寄りに「いい人」と思われるように、役者をやってください、と。家に帰ったらひどい人でもいいから(笑)、ここへ来たら「いい人」を演じてください、と。で、それをちょっと延長して、同じ職員にも「いい人」を演じてください、と。そういう感じで、ここで「いい人」を演じてたら、1日8時間「いい人」をやってたら(笑)、ホントに「いい人」になるんですよ(笑)。
藤田 それも面白いなあ(笑)。その前の、施設として「やさしい」っていうのはいいですねえ。すごくいいです。ものすごくいい(笑)。
ここで今までのお話の流れをまとめると、介護される人を3つに分けて、①②の人に対する介護はビジネスライクに進めることができるけど、一番多い③の人に対する介護は①②の人に対するような「作業」としての介護じゃだめで、介護としては一段上のレベルと言える「寄り添う」介護こそが必要なんだ、と。
じゃあ「寄り添う」ためにはどうしたらいいのか?っていうと、「信頼関係」を築いてなきゃだめなんだと。じゃあ「信頼関係」を築くにはどうすればいいかというと、実は単純で、「やさしく」すればいいんだと。しかしそのやさしさはふつうのやさしさじゃなくて、これまでこんなにやさしくされたことないよって程の驚くべきやさしさ(笑)でなきゃだめよ、と。
で、その「やさしさ」をもつためには、それを介護する個人に求めちゃだめで、施設全体がやさしくあれ、という、実に素晴らしいお話でした(笑)。お年寄りに対する、特に施設に入っておられるお年寄りの介護に関する、実に並々ならぬご意見だなあ、と感じます。
でも介護保険は「目標」をもってケアする、という大きな建前(笑)があるのですが、この点を踏まえた介護のお話となると、どうなりましょう?