(8)社会福祉法人の内部留保問題
藤田 「社会福祉法人の内部留保の問題」というのは平成25(2013)年に問題となったということですが、これなんかわたしなんかは考えたことも注目したこともない問題ですねえ(笑)。とても渋い(笑)。
ひとつよろしくお願いします。
■社会福祉法人、実はお金持ってた?
森藤 これは要するに社会福祉法人がお金を貯め込んでいたことが公になって、それが問題になったということなんですね。
職員の処遇が悪い、悪いっていうことが言われていて、それを聞いて世間は、お金ないんだなあ、と思っていたのに、よく調べてみると、一杯持っているじゃないか、と。あるんなら職員に出してやればいいのに、なんでこんなに貯め込んでいるんだー、ということがことの発端なんだよね。
藤田 ここでちょっとだけ言わせてもらいます。調べてみると、平成25年の社会保障審議会介護給付費分科会で、特養の内部留保額を試算した資料が公表され、なんと、特養1施設あたり平均約3億1千万円、総額で約2兆円もの内部留保があったことがわかったという(笑)。
森藤 そうなんだよ(笑)。信じられる?(笑)
藤田 いやあ。これ知ってわたしなんかすぐにうち(サンシャイン)の内部留保の額を調べましたよ(笑)。
森藤 ないでしょ?(笑)
藤田 ここでは言えませんが(笑)。でも3億1千万円もあったって。そりゃ驚きますね。
森藤 そうでしょ。世間の人は、なんだ?ってなりますよね。
このままだと社会福祉法人が悪者になってしまうんで、こういう事情もあるんだよ、ということをちょっと知っておいて欲しいと思いましてね(笑)。
要するにふつうの会社だったらね、お金を貯めておいてそれを将来の設備投資や事業拡大に使うのは当たり前に行われていることなんだけど、そういう当たり前のことが社会福祉法人ではできないんだよね。
そもそもこの内部留保の問題っていうのは、社会福祉法人という独特な制度が世間の人々によく理解されていないところからくる誤解だったということなのですよ。
その誤解には二つの側面があって、一つは、社会福祉法人特有の会計処理について理解が充分されていないこと、これについては高度な会計知識などないとちょっとわかりにくいし、いろんな会計専門家の人達が分析・解明をしているのでここでは割愛させてください。
そして、もう一つの誤解がここで取り上げようとしているポイントです。こちらのもう一つのポイントというのは、実際介護保険が始まってから起き始めたんですからね。それまでの措置制度の頃は、もしお金が余ったらそれ全部管轄官庁に返していましたからね。
■措置制度の時代の社会福祉法人の収入
まず、措置制度の頃の社会福祉法人では法人の収入はどのように確保されていたか?というと、各法人はその月の特養の入居者数などを計算し、それを実績報告として管轄官庁に提出します。管轄官庁はそれに対して、入居者1人当たりの経費(あらかじめ決められているのですが)などに基づいてその月の措置費を支給します。このあたりは今の介護報酬の請求とほとんど同じです。こうして得られた措置費の枠内で特養などの事業が運営できるようやりくりするわけです。
で、もし、経営を効率的に回して運よく措置費が余ったらどうするか?というと、残念ながら各法人の懐に入るわけじゃないんですよ。
年度末に1年間の収支を計算して余剰金があればほとんど全額管轄官庁に返還することになるんです。そこで、法人としては、措置費ぎりぎりで運営できるよう物品を購入したり、人件費に上乗せしたりするわけだけど、ま、毎年のことなので、措置費を承認する管轄官庁もそんなに残余金がでるような措置費を支給するようなことはありませんし、変な支出をしていたら厳しく追及されますからね。
藤田 措置時代は貯めようがなかった?
森藤 そう。貯めようがなかった。繰越金っていうのが少し出ていましたけど、それ監査で見られますからね。これなんですか?ってなもんで。
だから3月近くになってお金が余りそうだってなると、それなんとかして使うんですよ(笑)。
わたしが以前勤めていたところはヘルパーステーションがあったので、そういう時はバイクを買ったりしていましたね。そうそう、すごく立派な大きなシュレッダーを買ったことも思い出しました。
藤田 ほうほうほう。バイクやシュレッダーですか。
森藤 でもそんなに余らないですよ。毎年のことですからねえ。
■介護保険ができると内部留保ができ始めた
藤田 でもまあそういうわけで措置時代は内部留保なんてありようがなかったけど、介護保険が始まると内部留保ができ始めた。そのあたりの理由はなんでなんでしょう?
森藤 返さなくていいですからね。それが貯まってくるんですよ。
藤田 ちょっと待ってください。介護保険になって株式会社も参入できるようになったわけですが、株式会社の場合は内部留保の問題は起きないわけですか?もっとも株式会社は特養をもてませんが。
森藤 株式会社は利益を目的にしているけど、社会福祉法人はそれはだめでしょ、貯めてはだめですよ、ということなんですね。社会福祉法人の場合は税金面の優遇もありますしね。
■介護保険の時代の施設経営上の最大の問題
でね。介護保険になったときの経営上の最大の問題は、その年度の予算が足りなくなったらどうするかということです。当然その赤字分は法人が自己負担して埋め合わせなくてはなりません。管轄官庁に泣きついてもだめですよ。
措置時代だったら、経営がうまくいかなくて予算が足りなくなりそうだったら、管轄官庁と掛け合って追加で予算をつけてもらうことができたんです。もっともその追加予算を管轄官庁がかってに決められるわけではなくて、その自治体の議会の承認を得て補正予算を組んだり、などそう簡単ではないんです。
それに、法人としてはお金乞いをするのは体裁が悪いし、法人責任者(理事長など)の手腕が問われますので、実際は追加で予算が出たというような話はあまり聞いたことがありませんけどね。
でも措置時代だったらそういうこともできたわけです。だけど介護保険時代にはそういうことができませんからね。では赤字分の埋め合わせはどうやってするのか?と言うと、
➀理事長あるいは理事が資産家の場合、寄附をして埋め合わせる
➁銀行等から借入する
というところでしょうか。
でも、①は、金額にもよりますが、理事長や理事がいくら資産家であってもそんなにポンポンと寄附をだせるわけじゃないでしょう。②も、銀行等としても何か後ろ盾がない限り安易にホイホイとお金を貸してはくれないでしょう。もちろん株式会社ではありませんので、株を発行して資金調達をするというわけにもいきません。
ですから、絶対そうならないよう、毎年経費を節減し人件費を切り詰め赤字にならないようにするか、万が一赤字になったときのために毎年残余金を内部で抱え込んでおく必要があるんですよ。実は、それが積もり積もって内部留保と言われる状態になってしまったんですね。
さらにもう一つ大きな心配ごとは、やがて老朽化してくる特養の建物の建て替えの問題があります。
いずれにしても社会福祉法人にとって将来の法人・施設運営に対する大きな不安が根底にあり、それに備えての資金確保をしておかなければ、というのが内部留保を貯める一番大きな原因だったと思います。
一部に言われるような私腹を肥やす云々というのは的外れな批判だということを言っておきたいと思います。だいたい、本当に私腹を肥やしたいのなら内部留保になんかしませんよ。
藤田 なるほど。で、平成25年に社会福祉法人の内部留保が問題になったわけですが、森藤部長に伺うと、それももっともだと(笑)。仕方ないことなんだと(笑)。
それはわかりました。でもこの平成25年のときは、問題になって、それからどうなったんですか?
森藤 ある意味うやむやになったんですよ(笑)。
藤田 笑わさないでくださいよ(笑)。問題じゃないか、ってなったけど、結局うやむやになったんですか?(笑)
■施設の内部留保問題を受けて、会計処理を公表するように
森藤 要するにね、3億1千万円、そういうお金がね、会計上出たとしても、本当にそんなお金があるの?どこにあるの?ということなんですよ。自由に使えるお金なんかじゃないんですよ。いつかは建物の建て替えなり、修復なり、何かに使う予定のお金なんですから。
だったらそういうお金をね、秘密にしないで、公にしろ、と。
それで今は会計処理を公表するようになったでしょ。このときから公開するようになったんですよ。
公開してあって、将来何かに使うためのお金っていうことがわかるようになっているなら、なんの問題もないんじゃないの、ってなったんですよ。それに併せて社会福祉法人の会計システムも改善され、そういった内部留保と誤解されるような資金もきちんと会計上の処理ができるようになったんです。
藤田 公表するようになったのは2015年の改正からですか?
森藤 そうです。介護保険法の改正ではなく社会福祉法人としての改正になりますけどね。
藤田 株式会社も会計処理の公表が義務付けられたんですかね?
森藤 それはどうだろう。株式会社はまた法律が違うし、株式会社のことは詳しくはないので。
藤田 なるほど。つまりこういう例えですね。
わたしんちはカミさんが全部お金握ってるから、お小遣いももらってないんで、でも何かあるとこれこれに使いたいからって言うと、それだけはくれるんですよね。だから措置時代ですよ、わたしんちは(笑)。
森藤 使った後それを証明しなきゃいけない(笑)。
藤田 領収書出さなきゃいけない(笑)。
でも多くの人は、お小遣い毎月もらって、それを貯めてなにかの時に使っているわけで、これは介護保険時代ですよね(笑)。こっちの方が新しいですよね。自由に使えるし。
ということで、次のお話は次回でということにしましょう。
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