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介護保険 その進化過程におけるよもやま話 No.5

執筆者の写真: 風爺風爺


(2)介護保険創設(前回より続く)


介護保険導入のマイナス部分


藤田 えー、ユニットケアという考えは介護保険ができたからこそ定着された、言わば介護保険のプラスの部分だということでしたが、プラスの部分ばかりじゃないぞ、ということで。


まあ今の給料の話もそうでしょうけど、森藤部長のご指摘にあるんですが。これまた深い話ですねえ。


介護保険になって、入所者はサービス施設を選べるようになったけど、逆に施設の方も入所者を選べるようになったんだぞということですね。

 

森藤 そうなんです。施設には入所者を選ぶ「入所判定会議」っていうのがありましてね。

 

藤田 へええ。そういう会議があるんですか。これは法律で決められているんですか?

 

森藤 決められています。

 

藤田 これがどういう問題を生み出すんでしょう?

 

森藤 思い出してみましょう。措置時代の特養の入居者はどのように決められていたのか?

例えば、入居者の誰かが亡くなるなどして、ベッドが空いたとすると、施設はその旨を所轄官庁に報告する。所轄官庁では配下の福祉課などを通じて特養入居を申し込んでいる高齢者の中から選んで一人を推薦してくるわけですね。


このとき、福祉課はどのような人を選ぶかというと、たぶん最も重度で扱いも難しい困難な人を寄こしてくるんです。実際そうだったですよ。


そうして所轄官庁から推薦された入居候補者を受け入れ側の施設はまず断ることは許されないわけです。なぜなら、そもそもそういう人をケアするためにそこに特養が設立されているのだから。もちろん予算(措置費)もそこから出ているのだから。だから、施設は当然のようにそういう人を引き受け、現場の介護職員等も当たり前のように受け入れる。


さあ、そこからすさまじいまでの介護の闘いが始まるわけですが、当時の介護職員はそんなことにたじろぐような人々じゃあないんです。悪戦苦闘しながらでも見事その困難な人を手なずけてしまう。これぞまさに介護職員の真骨頂といったとこではないでしょうか。

 

藤田 はああ。なるほど。すごいですね。

 

森藤 すごいんですよ。じゃあ一方、介護保険後の特養の入居者はどのように決められるのか?


例えば、入居者の誰かが亡くなるなどして、ベッドが空いたとすると、特養入居希望者は施設に直接申し込んでいるので、施設はその中から選ぶことになるわけです。これがすなわち、「入所判定会議」です。


そうすると、先に述べたような最も重度で扱いも難しい困難な人を選ぶでしょうか?いいえ、選ぶことはまずないんです。

 

藤田 え?そういう人こそ選ばれるんじゃないんですか?それでもいいわけですか?

 

森藤 確かに、行政が出している入所判定の指針などはあるんですが、それが絶対的な基準になっているわけではないので、誰を選ぶかは、あくまでも施設の判断に委ねられているんですね。だからそんな大変そうな人は選ばない。


そうなると施設の介護職員は最も重度で扱いも難しい困難な人にケアをするチャンスがないので、そういうレベルの介護力を磨くことはできない。それが日本全体で長く続くと全体の介護力がどんどん落ちてくるわけです。


そうするとこのままでは、本当のプロフェッショナルな介護職員がいなくなるのかもしれませんよ。

 

藤田 はああ。深い心配ですねえ。

 

森藤 さらに恐ろしいのは、じゃあ特養入居で選ばれなかった最も重度で扱いも難しい困難な人はどうなっているんだろう?ということです。在宅に残ったままになってしまうわけです。こういった人々を一体誰がケアしているんでしょう?

 

藤田 はああ。確かに想像すると怖いですね。

そうですかー。そうですねえ。その「入所判定会議」が問題ですねえ。重度の人は選ばないよって、よく聞きますが、それは半分冗談かと思っていたんです。でも本当に選ばないんですね?本当に重度の人は?

 

森藤 入所希望者がまあ100人いたとして、もちろん全員を見渡して入所判定会議で判断されるわけじゃあないんですね。そうじゃなくて、その100人の名簿の中から、例えば声をかければ即入所になりそうな人であったり、施設の実情(人員配置や施設としての介護力の度合など)を勘案して、担当者があらかじめ入所に適していそうな何人かをリストアップして、その中から会議で入所者を選ぶようになっています。

 

藤田 じゃあその担当者が100人の中から、本当に介護が必要な人ばかりを何人か、重度でもなんでも選んでくれば森藤部長が心配するような事態は避けられるんですね?

 

森藤 まあ、そうですね。

 

藤田 はああ。担当者の技量っていうか、担当者の介護観が問われるわけですね。

 

森藤 いえ、それは担当者の問題ではなくて、施設全体がどのレベルの受入力(医療的側面も含めて)、を持っているかということにかかっているんです。


わたしは措置制度の時代からこの仕事をやっていますからね、ここでいう重度の人がどんな人なのかというのは目の当たりにしていますからね。そりゃもう、大変ですよ。見るからに。そういう人はいるんですよ。いっぱいおられるんですね。

 

藤田 じゃあ、そういう人は要介護度5じゃないですね。10ぐらい?

 

森藤 そりゃ無限大ですよ。そういう人を福祉課の人が連れてくるんですから。措置時代は。それを施設長と生活相談員(昔は生活指導員と言っていましたが)が引き受けていたんですから。で、連れて来られたその人を介護職員たちは平気で受け入れていたんですからねえ。

 

藤田 なるほどー。じゃああれですね。要介護10の人ばかりを引き受ける施設があってもいいですねえ。その代わり介護報酬、莫大もらって。それならいけそうですね。

いやあ。深いお話です。


そして次の改正、2006(平成18)年の改正の話になるんですが、これはどうでしょう?回をあらためてまたお話をうかがえればと思うんですが?

 

森藤 そうですね。じゃあ、そうしましょう。

 

藤田 ありがとうございます。今日も深くお話をうかがえてとてもおもしろかったと思います。


ではまた次回、お願いします。今日は本当にありがとうございました。

 

森藤 ありがとうございました。

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