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​介護保険物語 第1回(3/3)

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​介護保険前夜----措置時代の豊穣

 

 

藤田 とにかく特養が(1963年に)出来てから介護保険が始まる(2000年)まで、37年間もいわゆる「措置時代」が続いたわけですね。

 

最初にも言いましたが、わたしはその頃のことをあまり(というかほとんど)知りません。

最後にその措置時代の特養についていえば、どのような時代だったのでしょうか?

 

森藤 措置制度の時代の特養というのは、①入居者は施設を選べない、②施設に空きができたら行政が入居者を連れてきてくれるので施設側は入居者を探す努力をしなくていい、③施設は各自治体の予算(措置費)で賄われているので仮に経営的に赤字になってもそれで倒産してしまうというような心配をしなくてもいい、④施設側は行政の指導に沿った、法で決められたサービスをやっていればとりあえず良しとされる、などなど、これはもう、行政におんぶにだっこ状態ということですね。それに、施設の中の様子はなかなか外部に明らかにされにくいのでちょっとしたブラックボックス状態になっている、といったところもありました。

 

藤田 いやあ(笑)。そう聞くと、今の介護保険下の施設とはかなり状況が違ってたんですね(笑)。

 

森藤 でもね、実はこの時代には介護に対する意識レベルが結構高い介護職員も多かったんですよ。

 

藤田 え?ほんとですか?

 

森藤 措置制度時代の介護職員って、女性がほとんどで、男性はほとんどいなかったんですよ。なにしろ介護職員のことを寮母といっていたぐらいですから。

 

わたしが以前いたある施設には、広島県で初めて男性介護職員になったという人がいました。そのように聞いたように記憶していますが。間違っていたらすみません(笑)。

 

とにかくそれが納得できるくらい、その頃はもう、施設で働く介護職員はほとんど全員が女性でした。しかも結婚前の女性が多かった。結婚すると夜勤などのシフト勤務に入るのはなかなか難しくてだいたい退職するのが普通でしたので。

 

藤田 ええー!本当ですか?すごいですねえ(笑)。

 

森藤 どういう意味ですか(笑)。

ともかく、この時代の介護職員にはプロフェッショナルな意識の高い人も多かった。「誇り」をもって仕事をしていましたよ。

 

例えば、その施設の介護職員達には、お年寄りの身体に触れて介護を行ういわゆる直接処遇については介護職や看護職、生活指導員(今は職名が生活相談員に変わっていますが)などの直接処遇職員以外の職員(例えば事務職など)には絶対手を出させない、という不文律がありました。事務員などが誘導でお年寄りの手など引こうものなら、すぐに介護職員が飛んできて、「あぶないです。私が代わります」と言われたものです。

 

彼らには「自分たちのやっている介護は素人介護とは違うんです」というプライドがあったんです。

 

藤田 へえー。そうなんですか?それは意外ですねえ。想像ではその時代は、チューインガム噛みながら仕事するような、いい加減な介護職員ばかりだと思ってました(笑)。(失礼!)

 

森藤 まあ、世間的にはそういう人達がいたことも否定はしませんがね(笑)。

 

でも当時の介護職員の名誉のために、もうひとつ介護職員の気概についてお話ししましょう。

 

当時は特養の入居者を連れて温泉一泊旅行というのをやっていました。年に一度くらいですがね。じつはこれがものすごく大変なんです(笑)。

 

まあ想像してみてください。今でいう要介護4だの5だのの入居者、さすがにまあ寝たきりのような方は行きませんでしたがね、それでも車椅子生活者や認知症の方など20名くらいを連れて温泉宿に一泊するんですよ。

 

身体に障害のあるお年寄りを設備が不十分な温泉に入れたり、夜の宴会のときなんか介助などに忙しくて職員は自分が食べる時間なんてありません。夜は寝ずの番で職員はほとんど睡眠などとれない状態でした。

 

そういう大変な一泊旅行ですが、また次の年のその時期になったら「今年もやります」と熱い思いをたぎらせている介護職員が多くいました。今特養でこのような行事を行っている施設はほとんどないんではないでしょうかね。どこか知ってます?

 

藤田 それは驚きですねえ。いやああ(しきりに頭を振る(笑))

 

森藤 ですから一概に措置時代の介護はチューインガムレベルとは言えないですねえ(笑)。今、制度は整い、施設・設備は立派になりました。次は魂を入れないとね。

 

藤田 はああ。ほんとそうですねえ。面白いお話です。

 

たぶんその頃と今とでは、利用者の数、施設の数がぜんぜん違うんじゃないでしょうか。だから当然介護職員の数も違う。介護の質も異なる、ということかもしれません。詳しい数字を出してみたいですねえ。

 

次回予告----そもそも「介護」ってなに?

 

さて。今日のお話はここまでということです。

長時間、ありがとうございました。

 

森藤 こちらこそ、ありがとうございました。

 

藤田 次回はついに介護保険が始まるお話、といきたいところですが、どうしましょう?

 

森藤 そうですねえ。その前に「なぜ介護職なのか?」といったテーマでお話するっていうのはどうでしょう?

 

藤田 おお!いいですねえ!制度の前に、「介護」そのものを問う!カッコいいですね(笑)。

じゃあ次回はそれでいきましょう。また質問を考えておきますね。

今日は長い時間、お話を聞かせていただきまして、本当にありがとうございました。

とても楽しかったです。また次回もよろしくお願いします。

 

森藤 こちらこそ。よろしくお願いします。

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